- 2026年7月6日
梅雨に咳が長引くのはなぜ?──湿気・カビ・気圧と「咳・喘息」の関係、受診の目安|松平 呼吸器内科・アレルギー科クリニック(大泉学園・練馬区)

はじめに──「梅雨に入ると咳が出やすい」には、医学的な理由があります
じめじめとした梅雨の季節になると、「なんだか咳が止まらない」「風邪は治ったはずなのに咳だけ残っている」——そんな声を、この時期は診察室でよくお聞きします。
「気のせい」「梅雨だから仕方ない」と思われがちですが、梅雨に咳や喘息の症状が悪化しやすいことには、いくつかの医学的な理由があります。独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)も、梅雨時は気温や気圧の変化が大きく、湿気によってカビやダニが増殖するため、ぜん息発作につながる危険が増える可能性があると解説しています。日本アレルギー学会・日本呼吸器学会などがまとめた『喘息予防・管理ガイドライン2021』にも、気温や気圧の変化・雷雨などが喘息の悪化につながると記載されています。
この記事では、梅雨に咳が増える理由を一次情報に基づいて整理し、ご自宅でできるセルフケアと「受診の目安」をご説明します。長引く咳でお困りの方の参考になれば幸いです。
理由① 高湿度による「カビ」と「ダニ」の増加
梅雨に咳やアレルギー症状が悪化する最大の要因が、湿気によるカビとダニの増殖です。
環境再生保全機構によれば、湿った空気そのものが喘息に害を及ぼすわけではありません。むしろ湿気は、炎症で敏感になった気管支にはやさしい面もあります。問題は、長期間の高湿度から生じるカビやダニ、そしてダニのフンや死がいです。これらはアレルギーの原因物質(アレルゲン)となり、アレルギー性鼻炎や気管支喘息の症状を不安定にします。
厚生労働省や東京都の資料によると、カビは温度20〜35℃・湿度70%以上で、ダニは湿度60%以上・25〜30℃程度で増えやすいとされています。梅雨はまさにこの条件がそろう季節です。
カビの一種であるアルテルナリア(すすかび)などは、吸い込むことでアレルギー性の咳や喘息の引き金になることが知られています。「雨の日に室内にいるのに咳が出る」という場合、屋内のカビ・ダニが関係している可能性があります。
理由② 気温の変化(寒暖差)による気道への刺激
梅雨は、朝晩の寒暖差が大きくなる季節でもあります。
喘息や咳喘息の方は、気道に慢性的な炎症があり、気道がさまざまな刺激に対して敏感(気道過敏性)になっています。環境再生保全機構の解説では、健康な方なら気にならない程度の気温の変化でも、気道が敏感な方にとっては症状悪化の一因になると説明されています。
特に注意したいのが、暑い屋外から冷房のよく効いた室内に入ったときです。冷たい空気を急に吸い込むと、気道が過敏に反応して咳や発作が誘発されることがあります。冷房の冷気を直接浴びる、電車の強い冷房にあたる、といった場面でも同様です。
また、喘息発作は一日のうち就寝中、特に明け方に最も起こりやすいことが知られています。夜間から早朝にかけて咳が強くなる場合は、後述する「咳喘息」なども念頭に置く必要があります。
理由③ 気圧の変化(低気圧)
梅雨や台風のシーズンは、低気圧の影響で頭痛やだるさを感じる方が多い時期です。喘息の方にとっても、気圧の変化は症状悪化のきっかけになることがあります。
環境再生保全機構は、気道が過敏になっている喘息の方は、天気が崩れる際の気圧の低下をいち早く感じ取り、症状が悪化することが少なくないと解説しています。梅雨時や台風の時期に喘息症状が悪化する背景には、この低気圧という刺激の影響が考えられます。
大切なのは、「悪天候だから体調が悪いのは仕方ない」と諦めて自己判断で薬を中断しないことです。天気と自分の症状の関係を知り、適切に対処することで、より良い状態を目指すことができます。
理由④ 「雷雨喘息(thunderstorm asthma)」という現象
あまり知られていませんが、雷雨のあとに喘息発作が急増する「雷雨喘息(thunderstorm asthma)」という現象が海外で報告されています。前述の『喘息予防・管理ガイドライン2021』でも、雷雨が喘息悪化の要因として挙げられています。
そのしくみは、雷雨の際に空気中の花粉が湿気を吸って破裂し、通常より細かい粒子(アレルゲンを含む微粒子)となって拡散することにあると考えられています。細かくなった粒子は鼻でとらえきれず、気管支の奥深くまで届いて、アレルギー体質の方に強い喘息発作を起こすとされています。
海外ではイネ科の花粉が主な原因として報告されており、日本の主要な花粉であるスギ花粉とは事情が異なるため、現時点で日本での明確な大規模流行は確認されていません。ただし、急な雷雨の前後で息苦しさや激しい咳が出た経験がある方は、頭の片隅に置いておくとよい現象です。
その「長引く咳」、原因はさまざまです
咳は、続く期間によっておおまかに分類されます。日本呼吸器学会の『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン』では、3週間未満を「急性咳嗽」、3〜8週間を「遷延性咳嗽」、8週間以上を「慢性咳嗽」と分類しています。
3週間未満の咳の多くは、かぜなどの呼吸器感染症によるものです。とはいえ、咳が2週間以上続くときは、単なるかぜではない可能性を考えて一度ご相談ください。特に3週間を超えて続く咳(遷延性咳嗽)は、感染症以外の原因を見極めることが大切になります。長引く咳の主な原因には、次のようなものがあります。
■ 感染後咳嗽(かぜのあと)
かぜのあとに咳だけが残る。徐々に自然軽快する傾向。
■ 咳喘息
喘鳴(ゼーゼー)を伴わない乾いた咳。夜間〜早朝に悪化しやすい。
■ アトピー咳嗽
のどのイガイガ感・かゆみ。花粉症などアレルギーの合併が多い。
■ 副鼻腔気管支症候群・後鼻漏
鼻水がのどに流れ、痰のからむ咳が出る。
■ 胃食道逆流症(GERD)
胸やけを伴うことがあり、食後や横になったときに悪化しやすい。
日本呼吸器学会の資料では、慢性咳嗽の原因として咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群の3つで8割以上を占めるとされています。特に「咳喘息」は、喘鳴がないため見過ごされやすく、放置すると一部が本格的な気管支喘息へ移行することもあるため、注意が必要です。
これらは症状が似ていても原因と治療法が異なるため、自己判断で市販薬を飲み続けるのではなく、続く咳は原因を見極めることが大切です。
ご自宅でできるセルフケア
梅雨の咳・喘息対策として、環境再生保全機構や東京都などの公的資料でも勧められている工夫をまとめました。
- 室内の湿度管理:カビ・ダニを増やさないため、室内の湿度は50〜60%程度を目安に。除湿機やエアコンの除湿機能を活用しましょう。
- こまめな換気と掃除:湿気をためないよう換気し、床掃除はできれば毎日、少なくとも3日に1度を目安に。
- 寝具を清潔に:布団やベッドはダニの温床になりがちです。晴れた日に布団を干す、布団乾燥機を使う、掃除機をかけるなどで清潔に保ちましょう。
- 冷房の使い方:設定温度を下げすぎず、冷気を直接吸い込まないように。冷えた室内に入るときはマスクの着用も有効です。
- 処方薬の継続:喘息などで長期管理薬(吸入ステロイド薬など)を処方されている方は、「調子が良いから」と自己判断で中断せず、医師の指示どおり続けることが大切です。
こんなときは受診の目安です
セルフケアで様子をみてよい咳もありますが、次のような場合は、呼吸器の専門的な診察をおすすめします。
- 咳が2週間以上続いている(3週間を超える場合は特にご相談ください)
- 夜間や明け方に咳で目が覚める
- 息苦しさや、ゼーゼー・ヒューヒューという音(喘鳴)を伴う
- 市販の咳止めを飲んでも改善しない
- 発熱・体重減少・血痰など、ほかの症状を伴う
特に「息苦しさ」や「喘鳴」を伴う場合、高熱が続く場合などは、早めにご相談ください。
当院の呼吸器内科・アレルギー科での診療について
当院は、呼吸器内科とアレルギー科を専門とするクリニックです。長引く咳・咳喘息・気管支喘息の診療を得意としており、原因を見極めるための検査体制を整えています。
- 胸部X線検査:肺炎や他の肺疾患の有無を確認します
- 呼吸機能検査(スパイロメトリー):気道が狭くなっていないか、気流の状態を調べます
- FeNO(呼気一酸化窒素)検査:気道のアレルギー性(好酸球性)の炎症の程度を評価します
「かぜのあとの咳がなかなか治らない」「毎年この時期に咳が出る」といったお悩みは、呼吸器・アレルギーの視点から原因を整理することで、対処の道筋が見えてくることがあります。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
- 梅雨に咳・喘息が悪化しやすいのは、高湿度によるカビ・ダニの増加、気温(寒暖差)や気圧の変化が主な理由です
- 雷雨の前後に症状が出る「雷雨喘息」という現象も知られています
- 2週間以上続く咳は一度ご相談を。特に3週間を超えて続く咳は、感染症以外に咳喘息・アトピー咳嗽・後鼻漏・胃食道逆流症などさまざまな原因があります
- 室内の湿度管理・こまめな掃除・処方薬の継続がセルフケアの基本です
- 咳が長引く、夜間に咳で目が覚める、息苦しさや喘鳴を伴うといった場合は、早めにご相談ください
じめじめした季節の咳を「梅雨のせい」と我慢しすぎず、気になる症状があるときは一度ご相談いただければと思います。
監修
松平 呼吸器内科・アレルギー科クリニック
(旧 水谷内科呼吸器科クリニック)
院長 松平 秀樹
略歴
- 平成 6年 東京慈恵会医科大学医学部卒業、医師国家試験合格
- 平成 6年 東京慈恵会医科大学付属病院研修医
- 平成 8年 東京慈恵会医科大学外科学講座入局
- 平成12年 癌研究会附属病院 外科
- 平成13年 東京慈恵会医科大学 呼吸器外科
- 平成21年 独立行政法人国立病院機構東京病院 呼吸器外科
- 平成22年 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 外科
- 平成30年 東京慈恵会医科大学付属病院 呼吸器外科
- 令和 4年 町田市民病院 外科(呼吸器外科担当部長)
- 令和 7年 松平小児科副院長
- 令和 7年 10月より水谷内科呼吸器科クリニック開業
- 令和 8年 4月よりクリニック名変更(松平 呼吸器内科・アレルギー科クリニック)
資格
- 医学博士
- インフェクションコントロールドクター
- 日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医
- 日本外科学会 外科専門医
- 医療経営士3級
所属学会
- 日本結核・非結核性抗酸菌症学会
- 日本肺癌学会
- 日本外科感染症学会
- SIGMA Xi (Regular member)
- 日本呼吸器外科学会
- 日本外科学会
- 日本胸部外科学会
参考情報・出典
- 独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)「天気とぜん息の関係を知っておきましょう(全3回)」(湿気・カビ・ダニ/気温/気圧)https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202207_1/
- 日本アレルギー学会・日本呼吸器学会ほか『喘息予防・管理ガイドライン2021』(気温・気圧の変化・雷雨と喘息悪化の記載)
- 日本呼吸器学会『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン』(急性・遷延性・慢性咳嗽の分類、慢性咳嗽の主要原因)https://www.jrs.or.jp/
- 厚生労働省「カビ及びダニ対策について」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/150522.pdf
- 東京都アレルギー情報navi.「室内環境対策」https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/allergy/measure/indoor.html
- アレルギーポータル(日本アレルギー学会)「室内環境の整備について」https://allergyportal.jp/knowledge/indoor-environment/
- 雷雨喘息(thunderstorm asthma)の機序に関する解説(花粉粒子の破裂とアレルゲン微粒子化)
※ 本記事は医療・健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療を保証するものではありません。症状や治療方針については、必ず担当医師にご相談ください。記載内容は執筆時点(2026年7月)の情報に基づいています。本記事は医療広告ガイドライン(厚生労働省)を遵守して作成されています。